空き家問題|相続財産管理人・不在者財産管理人について

空き家問題と相続財産管理人・不在者財産管理人

現在、全国的に空き家問題が深刻化しており、地方自治体は様々な対応を迫られています。その中でも、所有者が死亡して相続人が存在しない空き家や、所有者の行方が分からない空き家については、地方自治体が所有者に対応を求めることができません。このため、解説書等では、対応策として「家庭裁判所に相続財産管理人や不在者財産管理人を選任するよう申し立てる」ということが挙げられています。

民法を読めば、こうした事例で相続財産管理人や不在者財産管理人の選任申立てができる、ということは分かります。しかし、これらの管理人の具体的な業務内容等について、地方自治体にはあまり情報がなく(さらには解説書を書かれている学者の先生にも情報がなく)、実際に選任の申立をする際の具体的なイメージを描きづらいのではないかと思います。

そこで、弁護士として財産管理人に就任してきた経験から、少しイメージを書いてみようと思います。

相続財産管理人と不在者財産管理人の違い

まず、相続財産管理と不在者財産管理は、似通った制度ではありますが、財産管理人に就任する立場からすると、かなり違う部分があり、業務遂行の方向性も異なります。この最大の理由は、業務の目的が異なることにあります。

相続財産管理人の業務の目的

相続財産管理人の業務の目的は、相続人のいない相続財産について調査し、判明した財産を換価(現金化)して、債務(あれば)を弁済し、残余財産を国庫に帰属させることです。

不在者財産管理人の業務の目的

不在者財産管理人の業務の目的は、行方の分からなくなった人(不在者)の財産について、不在者が戻ってくる(帰来する)まで管理を継続することです。

権利者が存在するかどうか

相続財産管理人が管理する財産については、相続人がいないことが前提となっているため、実質的な権利者は存在しません。(特別縁故者などの利害関係者は存在することがあります。)

不在者財産管理人が管理する財産については、所有者である「不在者」がどこかで生活していることが前提ですから、実質的な権利者が存在します。

不動産処分にあたってのそれぞれの財産管理人の立場

空き家問題で、地方自治体が相続財産管理人や不在者財産管理人の選任を求める目的は、多くの場合、空き家の処分(売却)であると考えられます。

相続財産管理人は、そもそも、財産を全て現金化(売却)して債務弁済・国庫帰属させることを目的としていますから、空き家の処分(売却)について躊躇する理由はありません。その意味で、地方自治体の空き家対策とは親和性のある制度といえます。

これに対し、不在者財産管理人は、いつか戻ってくる不在者(権利者)のために財産を管理するのが目的です。仮に空き家について不在者財産管理人に選任されたからといって、おいそれと不在者の住居(帰住先)である空き家を処分することはできません。安易に処分してしまえば、責任問題にも発展しかねません。このため、不在者財産管理人は、相続財産管理人に比べて、地方自治体の空き家対策との親和性はないと考えられます。

地方自治体としての考え方

相続財産管理人

上記のように、相続財産管理制度は直接的に空き家の処分につながりますので、空き家対策と親和性があります。このため、適切な事案があれば、地方自治体としても積極的に選任申立をしていくのが良いと考えます。なお、申立にあたっての問題点(申立権者・申立費用・予納金等)については別途書く予定です。

不在者財産管理人

これに対し、不在者財産管理人については、上記のように、財産管理人が選任されてもおいそれとは空き家を処分できません。しかも、そのような状況の中で、財産管理の費用は嵩んでいくことになります。このため、「不在者財産管理人に空き家を処分してもらおう」という目的で選任申立をすることは、適切でないと考えます。(仮にそのような申立をするのであれば、申立段階で「不在者の資産状況に鑑みて当該不動産の処分が必要であること」を説明する必要があると考えられますが、当該不動産以外の資産状況を把握できない中でこのような説明をすることは困難でしょう。)

もっとも、地方自治体が行政代執行等をする場合に、名宛人として不在者財産管理人の選任を求めることは、あり得るでしょう。(ただし、不在者財産管理人を選任せずに略式代執行をすることもあり得ますので、状況に応じた検討が必要になります)

家庭裁判所との事前協議

いずれの場合も、財産管理人選任により解決が可能かどうかという問題に加え、申立費用や予納金の問題もありますので、まずは弁護士に相談をしていただいた上で、申立にあたっては家庭裁判所とも事前協議をすることが望ましいと考えます。

この記事は、随時追記及び修正する予定です。

弁護士による契約書の作成・チェック

当事務所では、神奈川県内・川崎市内の企業の皆様から、契約書の作成・チェックのご依頼を頂いております(日本国内の契約も英文契約も対応できます)。

弁護士が契約書のチェックや作成のご依頼を受ける際には、なるべく、最初に1時間程度の打合せをさせて頂き、契約の対象となる商品・サービスの内容、想定される取引の流れ、そして契約にいたった背景といった具体的な事情について伺うようにしております。

これは、契約書の文面のみからでは取引のイメージが掴めず、適切なチェックができないためです。

また、打合せの際に、その他の法的問題等についてもお話し頂いて、アドバイスができることもあります。

このため、新たな契約(取引)を検討されている際は是非、雑談程度のお気持ちでも結構ですので、検討されている契約(取引)の枠組み等について、最初に弁護士と話す時間を取って頂ければと思います。

財産開示手続と刑罰

財産開示手続で裁判所に出頭しなかった債務者が書類送検されました

財産開示手続を申し立てられたのに正当な理由なく出頭しなかった債務者について、神奈川県警が書類送検(検察庁に送致)したとの報道がありました。

財産開示手続とは

財産開示手続は、債権者が債務者の財産について情報を得るための手続です。財産開示手続の申立があると、裁判所が、財産状況について説明させるために債務者を呼び出します。

財産開示手続を申し立てるためには、強制執行をできる債務名義(確定判決等)があることに加え、事前の強制執行がうまくいかなかったことなどの要件があります。

債権者は、お金の支払いを請求する裁判で勝訴しても、債務者の財産の所在が分からなければ強制執行もできず、債権を回収できません。実際に、裁判で勝ってもお金を回収できないケースというのは珍しくありません。

こうした問題を解決するために、平成15年の民事執行法改正で、債務者を裁判所に呼び出して財産状況について説明させる財産開示手続が新設されました。しかし、当初の制度では、債務者が呼び出しを無視しても最大で30万円の「過料」が科されるのみでした。このため債務者が出頭しないことも多く、あまり実効性のない制度と言われていました。

そこで、さらに民事執行法が改正され、2020年4月1日から施行されました。この改正では、不出頭の罰則が、上記の過料から、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」へと大幅に強化されました。

これまでとの違い(過料から懲役・罰金へ)・・・前科、刑務所

過料とは異なり、懲役や罰金は刑罰であり、前科がつきます。刑務所に入れられる可能性もあります。

改正前に科されていた「過料」は一種の罰ではありますが、刑罰ではありません。このため、前科もつきません。そして、実際に過料が強制的に徴収されることも少ないため、「30万円以下の過料」といっても、実効性があまりありませんでした。

これに対し、懲役と罰金は、刑罰です。いずれも前科がつきます。特に、懲役に関しては、刑務所に入れられるわけですから、過料とは次元の異なる重い罰といえます。罰金についても、支払わなければ労役場留置と言って刑務所に入れられる制度があります。

今回報道されたケースでは、債務者は、無視していれば債権者が諦めると思っていたようです。これまでの制度では、このように考えて請求を無視する債務者も珍しくありませんでした。しかし、今後は、債務者が不誠実な態度を続けると前科までつく可能性が高まりました。既に他の前科があるような債務者については、懲役刑の実刑(執行猶予がつかず刑務所に入れられること)が科される可能性もあります。

過去の未払い債務がある債務者の方

上記の改正により、今後、多くの債権者が財産開示手続を申し立てることが予測されます。過去の未払い債務があって、支払ができないという方は、早急に弁護士に相談してください。弁護士が事情を確認し、状況に応じて分割払いの交渉や自己破産の手続をしていくことになります。

債務者の中には、自己破産をすることで債権者に迷惑がかかるのでは、と躊躇する方もいらっしゃいます。しかし、払えるあてもないのに自己破産もせずに放置する方がよほど債権者に迷惑がかかってしまいます。

債権者に重ねての迷惑をかけてしまう前に、弁護士に相談して頂ければと思います。

過去に裁判で勝訴したのに回収できなかった債権者の方

過去に裁判で勝訴したにも関わらず、債務者の資産の在処が分からずに回収できなかった債権者の方にとっては、上記の改正は朗報といえます。

もちろん、この手続で必ず資産の所在が分かるわけでもありませんし、そもそも資産がない債務者については債権は回収できません。しかし、支払能力があるのに無視を続けるような不誠実な債務者に対しては、相当有効な手続ができたと言えます。当法律事務所としても、回収可能性があるケースについては積極的に財産開示手続を活用していければと考えております。

遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)の消滅時効

 「遺産分割 時効」というキーワードでGoogle検索すると、上位に出てくる解説サイトの情報がかなりの割合で間違っています。

 中には、【遺産相続の時効は、相続の開始(被相続人の死亡を知ったタイミング)から〇年間です。相続の開始を知らなかった場合には、遺産相続の時効は相続の開始から〇年となっています。】という内容の記事を掲載しているサイトさえありました。これは、遺留分侵害額(遺留分減殺)請求の時効と混同して誤った記載と思われます。相続そのものに消滅時効はありません。

 そこまで大胆な間違いでなくても、遺留分侵害額(遺留分減殺)請求権の消滅時効について、「死亡を知ったとき」または「遺留分が侵害されていることを知ったとき」から1年で消滅時効になり、被相続人が死亡してから1年経つと時効になってしまうと断言しているサイトも少なくありません。

 実際には、遺留分の請求権が消滅時効にかかるのは、その双方を知った時から1年です。つまり、死亡の事実は知っていても、遺留分の侵害の事実(遺言の存在など)を知らなければ、1年の消滅時効は進行しません。

民法1048条(旧1042条)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 一見簡単に見えることでも、重要な問題については、ネット検索で済ませずに、専門家に相談していただければと思います。

分散した株式の集約(中小企業)

中小企業(同族会社)における株式の分散

 中小企業(同族会社)では、親族に株式を分散した結果として、株主の人数がかなり多数になっていることがあります。会社によっては、その中の何人かの株主と連絡が取れなくなっていることさえあります。

 このような状態を放置すると、次のような問題が生じかねません。

  • 株主総会が適法に開催できず、重要な意思決定ができなくなる
  • 友好的でない人物が株主になる可能性がある

 かつて、同族会社では株主総会などを開催していないことも多く、それで表面上は問題なく経営できていたかもしれません。しかし、現在ではそのようなことは許されなくなってきており、上記のようなリスクが顕在化することも少なくありません。

 しかも、放置することで、多くの株主についてさらに相続が発生し、株主数がさらに増えてしまうことがあります。相続により、会ったこともない人物が株主になってしまうこともあります。

分散した株式を集約する方法

 分散した株式を集約するには、いくつかの方法があります。

  • 交渉して株式を買い取る方法
  • 90%以上の総議決権を有する大株主による株式売渡請求
  • 5年以上住所不明の株主の株式について競売
  • 相続人等に対する売渡請求(定款の定めが必要)
  • 全部取得条項付の種類株式を発行する(定款の定めが必要)

 これらの方法にはそれぞれ特徴がありますので、会社の実際の状況に応じた適切な方法を選択し、それに向けて準備をしていくことになります。

まずは、株主名簿の整備が必要です

 どのような方法を選択するか検討するにあたり、まずは株主名簿を正確に整備する必要があります。現在でも、株主の情報が決算書にしか記載されていないという中小企業も少なくありません。しかし、様々な事情から、決算書に誤った記載がされることも少なくありません。そして、株主を正確に把握できなければ、有効な株主総会を開催することさえ困難になりかねません。

 会社法では、株主名簿の整備義務が定められており、違反した場合の罰則もあります。いまだに株主名簿の整備をしていない会社については、早急に対応をする必要があります。

専門家(税理士・弁護士)によるサポート

 分散した株式の集約については、上記のように様々な方法があります。しかし、どの方法が正解と言い切れるものではなく、個々の会社の実情に沿った検討が必要になってきます。数年単位での準備が必要になることも少なくありませんので、継続的に専門家(顧問税理士、顧問弁護士)に相談できる体制作りをしていただければと思います。