遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)の消滅時効

 「遺産分割 時効」というキーワードでGoogle検索すると、上位に出てくる解説サイトの情報がかなりの割合で間違っています。

 中には、【遺産相続の時効は、相続の開始(被相続人の死亡を知ったタイミング)から〇年間です。相続の開始を知らなかった場合には、遺産相続の時効は相続の開始から〇年となっています。】という内容の記事を掲載しているサイトさえありました。これは、遺留分侵害額(遺留分減殺)請求の時効と混同して誤った記載と思われます。相続そのものに消滅時効はありません。

 そこまで大胆な間違いでなくても、遺留分侵害額(遺留分減殺)請求権の消滅時効について、「死亡を知ったとき」または「遺留分が侵害されていることを知ったとき」から1年で消滅時効になり、被相続人が死亡してから1年経つと時効になってしまうと断言しているサイトも少なくありません。

 実際には、遺留分の請求権が消滅時効にかかるのは、その双方を知った時から1年です。つまり、死亡の事実は知っていても、遺留分の侵害の事実(遺言の存在など)を知らなければ、1年の消滅時効は進行しません。

民法1048条(旧1042条)
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 一見簡単に見えることでも、重要な問題については、ネット検索で済ませずに、専門家に相談していただければと思います。

分散した株式の集約(中小企業)

中小企業(同族会社)における株式の分散

 中小企業(同族会社)では、親族に株式を分散した結果として、株主の人数がかなり多数になっていることがあります。会社によっては、その中の何人かの株主と連絡が取れなくなっていることさえあります。

 このような状態を放置すると、次のような問題が生じかねません。

  • 株主総会が適法に開催できず、重要な意思決定ができなくなる
  • 友好的でない人物が株主になる可能性がある

 かつて、同族会社では株主総会などを開催していないことも多く、それで表面上は問題なく経営できていたかもしれません。しかし、現在ではそのようなことは許されなくなってきており、上記のようなリスクが顕在化することも少なくありません。

 しかも、放置することで、多くの株主についてさらに相続が発生し、株主数がさらに増えてしまうことがあります。相続により、会ったこともない人物が株主になってしまうこともあります。

分散した株式を集約する方法

 分散した株式を集約するには、いくつかの方法があります。

  • 交渉して株式を買い取る方法
  • 90%以上の総議決権を有する大株主による株式売渡請求
  • 5年以上住所不明の株主の株式について競売
  • 相続人等に対する売渡請求(定款の定めが必要)
  • 全部取得条項付の種類株式を発行する(定款の定めが必要)

 これらの方法にはそれぞれ特徴がありますので、会社の実際の状況に応じた適切な方法を選択し、それに向けて準備をしていくことになります。

まずは、株主名簿の整備が必要です

 どのような方法を選択するか検討するにあたり、まずは株主名簿を正確に整備する必要があります。現在でも、株主の情報が決算書にしか記載されていないという中小企業も少なくありません。しかし、様々な事情から、決算書に誤った記載がされることも少なくありません。そして、株主を正確に把握できなければ、有効な株主総会を開催することさえ困難になりかねません。

 会社法では、株主名簿の整備義務が定められており、違反した場合の罰則もあります。いまだに株主名簿の整備をしていない会社については、早急に対応をする必要があります。

専門家(税理士・弁護士)によるサポート

 分散した株式の集約については、上記のように様々な方法があります。しかし、どの方法が正解と言い切れるものではなく、個々の会社の実情に沿った検討が必要になってきます。数年単位での準備が必要になることも少なくありませんので、継続的に専門家(顧問税理士、顧問弁護士)に相談できる体制作りをしていただければと思います。

コンプライアンスとは

 現在の企業法務では、「コンプライアンス」がとても重要です。最近では、大企業だけでなく中小企業でもコンプライアンス規定を作成するところが増えてきています。

 コンプライアンスというカタカナ語の意味するところは広く、明確な定義をすることはできません。日本語では「法令遵守」という言葉が使われることが多いようです。もっとも、コンプライアンスにおいて遵守すべき対象には法令(法律、行政機関の命令)のほかに、社内の規則や社会の一般的なルールも含まれ得ることから、「法令遵守」という言葉が使われることもあるようです。あるいは、「規範遵守」や「ルール遵守」とするのが分かりやすいかもしれません。

 社会の様々なルールには、国会で慎重な審議を経て成立する法律のような「硬いルール」から、日常の食事のマナーのような「緩いルール」まであります。企業が則るべきコンプライアンスに、全てのルールが含まれるわけではありません。そして、どの程度のルールまでが含まれるのか、という境界線は曖昧です。この境界線については、各企業でそれぞれ意識して検討し、「守るべきルール」を設定していく必要がありますし、検討の過程ではどうしてもグレーゾーンも出てくるでしょう。

 そして、「守るべきルール」の範囲は、企業文化によっても変わってきます。決して、全てのルールを守る会社が良い会社ということにはなりません。極端な話、従業員全員の箸の上げ下ろしまで上司が厳しくチェックするような会社があったとすれば、ブラック企業と言われかねないでしょう。

 結局のところ、コンプライアンスは、「当該企業が守るべきルール」を決めて経営・業務遂行をすべき、ということになります。そのためには、経営者や従業員が、自社の経営理念や業務内容について十分な理解をしながら、自社に合った形のコンプライアンスを構築していく必要があります。また、コンプライアンスは、時代によっても変わっていくことに注意が必要です。一度社内で決めたから終わり、というものではありません。例えば、過去には女性を採用で差別したり、女性職員のことを軽んじたりということが、さしたる問題意識もなく行われていました。しかし、現在ではいずれも大きな問題があると捉えられる行為です。

 そして、自社のコンプライアンスについて考えるにあたり、社会において「必ず守るべき」と捉えられているルールを蔑ろにしないように気をつける必要があります。組織内部だけで検討をすると、どうしても過去の企業文化になじんでいることもあり、社会全般のルール意識とは乖離してしまうことがあります(いまだに女性職員のことを「うちの女の子」と呼ぶ中小企業経営者は珍しくありません)。このため、社内のコンプライアンス規定等を作成する際には、是非、外部の専門家(弁護士等)の意見も聴いて頂ければと思います。

中小企業のIT化の必要性

ここ数年、近隣の中小企業の皆様からご依頼を受けることが増えています。

多くの場合、企業関係のお仕事では、電子メールで連絡を行います。また、最近はZoom等のウェブミーティングも普及しつつあるので、簡単な打合せであればウェブミーティングで実施することも増えています。

それでもまだ、パソコンが使えないという企業からのご依頼も少なくありません。社内でパソコンが普及していないのに利益を出しているのはすごいことだと感心する反面、少しの投資でIT化を進めれば、生産性が飛躍的に増すだろうとも思います。

弊事務所は、法律事務所の中でも比較的ITツールを活用している方だと思いますが、今では様々なITツールがなくては仕事ができないくらいになっています。仕事のスピード感はもちろんのこと、ミスの防止という点でもITが必須となっています。

当事務所は法律事務所ですので、基本的には法律関係のご相談をお受けしておりますが、そうしたご相談に加えて、企業規模に応じたIT化の方法についてもある程度のご相談(雑談)に応じることは可能です。ご興味があれば是非ご相談ください。

企業の事業継続、倒産(破産・民事再生)|特に緊急で弁護士に相談して頂きたいケース

従業員の給料未払い(賃金未払)がある場合は、早期に弁護士に相談して下さい

 企業の経営者にとって、従業員の生活を守ることは最も重要な使命の一つです。しかし、多くの企業の倒産事件を見ていると、何ヶ月も賃金を支払っていない企業も決して珍しくはありません。本来、賃金支払は最も優先されるべき支払の一つであり、給料を支払えない時点でその企業の経営はほぼ破綻していると言っても良いでしょう。従業員の保護のためにも、早急に、専門家に相談して対応を検討すべきです。

事業継続か、倒産か

 事業を継続するためには、未払賃金を支払うことが大前提になります。給料を支払わなければ再建に向けた従業員の協力も得られません。つまり、賃金支払のための資金を確保する見通しが重要になります。基本的には事業計画を練り直して、金融機関と相談することになるでしょう。
 資金を確保する見通しが立たない場合は、残念ながら、倒産を選択することになります。そして、下記のような理由で、倒産をするのであれば、とにかく迅速な決断と処理が重要になってきます。

未払賃金立替払制度

 事業者(労災保険適用事業所)が破産した場合、未払賃金立替払の制度を利用すると、従業員が賃金の一部について立替払を受けられます。
 しかし、裁判所への破産手続開始申立てをした日から6か月以上前に退職(解雇)した従業員については、この制度は利用できません。
 つまり、解雇(事業停止等)をしてから6か月以内に裁判所に破産申立をしないと、従業員は受け取れるはずだった賃金を受け取れなくなってしまいます。事業者の破産申立は、準備だけで数か月かかるのが通常です。このため、賃金未払がある場合は、とにかく早期に弁護士に相談して下さい。

(参考)労働者健康安全機構のウェブサイト
https://www.johas.go.jp/chinginengo/miharai/tabid/687/Default.aspx