建築後79年を経過した木造建物について所有権取得の経緯を理由の一つとして建物賃貸借契約解約の正当事由が否定された裁判例(東京地裁平成27年2月5日判決)

判例時報No.2254に掲載された判決を紹介します。

建築後79年が経過した建物について、不動産業者が平成24年11月に所有権を取得し、その2か月余り後の平成25年2月に賃借人に対し解約を申し入れたという事案です。これに対し、賃借人が解約を受け入れなかったため、不動産業者が建物明渡しを請求する裁判を起こしました。

一般論として、賃貸人から建物の賃貸借契約を解約するには、正当事由が必要とされます。この正当事由には諸般の事情、たとえば建物の老朽化の程度や、新築計画、所有者が建物を使用する必要性、立退料の提供の有無などが考慮されます。

この裁判では、不動産業者が建物の所有権を取得した後、ほんの2か月余り後に解約申し入れをしていることから、裁判所は、原告の不動産業者について 「被告を退去させることを念頭において本件建物の所有権を取得した」 「居住に対する配慮が欠けている」 などと認定し、その他の事情と合わせて解約申入れの「正当事由があるとは認められない」 と判断しました。

世間的には、立退きを求めることを前提に不動産の所有権を取得する不動産業者も少なくないと思われます。このような手法も、正当な立退料が払われるなどして納得を得られるなら、賃借人にとって必ずしも不当とはいえません。ただ、上記裁判例にもあるように、「正当事由」の判断にあたっては所有権取得の経緯や動機も考慮されることがあります。このため、賃借人が解約を拒否することが見込まれるようなケースでは、立退きを求めることを前提に不動産を取得すべきかどうか、賃借人の権利も十分に尊重して、慎重に判断する必要があります。

不動産取引には、トラブルが少なくありません。不動産業者の方は、微妙な事案では是非、事前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

本人確認義務違反で損害賠償責任が認められた裁判例 (東京地方裁判所平成26年11月17日判決)

澄川法律事務所(神奈川県川崎市)弁護士の澄川です。判例時報2247号に、売主の本人確認義務を怠ったとして司法書士が損害賠償の支払を命じられた事例が掲載されています(東京地方裁判所平成26年11月17日判決)。

この事件では、司法書士が、売主が提出した運転免許証や印鑑登録証明書が客観的に明らかにおかしいのに(インクのにじみ、印字のずれなど)、これらが偽造であることを看過してしまいました。

そこから簡単に想像できるように、この「売主」は実は所有者本人ではありませんでした。しかし、買主は、司法書士が本人確認をしたということで信用して、代金の支払いまでしてしまいました。そして、支払が済んだ後に、法務局で偽造が発覚しました。この時点で、真の氏名も分からない「売主」はどこかに逃亡してしまい、買主は代金を返してもらうこともできなくなってしまいました。

 不動産取引においては、通常は、こういうことが起きないように、慎重に取引が行われます。買主も、直接の契約当事者として、相手の信用性について十分な調査をしなくてはいけません。この事件では、原告である買主自身も十分な調査をしなかったということで、司法書士に対する損害賠償請求は7割減額されました。この結果、損害額3500万円余りのうち、3割にあたる1050万円余りについて、司法書士の損害賠償責任が認められています。

被告となった司法書士も1000万円を超える損害賠償をしなくてはならず大変ですが、買主としても、残りの2500万円は丸損です(仮に後日詐欺師が捕まっても、お金は残っていないことがほとんどです)。不動産取引は、多少時間がかかっても全当事者が気をつけて慎重に進めなくてはいけない、という教訓となる事例かと思います。