契約書ひな形をそのまま使うリスク
企業間の取引で使用される契約書について、既存のひな形をそのまま用いて契約をされているケースが見受けられます。残念ながら、こうした使い回しの契約書では、トラブルが生じた際に役に立たないこともあります。
秘密保持条項の場合
例えば、多くの契約書には秘密保持条項が含まれています。「両当事者は、互いに知り得た営業上の秘密を他者に無断で開示してはならない。」といった文言です。これは、ある意味、当たり前のことです。このような条項があってもなくても、取引先の営業上の秘密を漏洩すれば、不法行為(民法709条)として損害賠償責任を負う可能性があります。
もっとも、民法709条の責任を追及するためには、秘密を漏洩された側(被害者側)で、損害が発生したこととを立証しなくてはいけません。ところが、漏洩された情報がそもそも「秘密」といえるのかどうか、また、漏洩による損害額がいくらなのかは、立証が困難なこともあります。契約書で秘密情報を特定するとともに、漏洩された場合の損害賠償額の予定額を定めることで、こうした立証の困難を避けることができます。
このような具体的な条項を入れておかないと、結局、裁判をして損害の発生と損害額を明らかにする必要が生じてしまいます。
準拠法の指定に問題がある事例
別の例として、ある国際的な契約書で、A国のA社とB国のB社の契約だったのに、なぜか準拠法(契約の解釈に使う法律)がC国の法律だったことがあります。A社の親会社であるC社の契約書をそのまま翻訳して流用したため、このようになってしまったようです。このような契約でトラブルになると、A社もB社も、慣れないC国の法律を調べて対処しなくてはなりません。そのために、海外からC国の弁護士に依頼をすれば、通常よりもはるかに高額な費用がかかってしまいます。(このため、仮にこういう契約が存在している場合は、トラブルになる前に話し合って条項を修正する必要があります。)
契約書を作成する目的
契約書を作成する目的は、契約内容を明確にして無用な法的トラブルを防止することにあります。トラブルが生じて裁判を行うようになると、弁護士費用や裁判費用等がかかるのはもちろん、せっかくの取引関係が失われてしまいます。場合によっては、莫大な損害賠償を支払う羽目にもなります。
契約書作成時は弁護士にご相談ください
契約締結前に、弁護士に契約書のチェックを頼めばそれなりの費用がかかりますが、事後的なトラブルに比べれば、事前チェックのためのコストの方がはるかに小さいのです。契約書作成の際は、是非一度、弁護士にご相談ください。
特に、法務部を持たない中小企業の方は、新規の契約を締結する際には、是非、弁護士に相談されることをお勧めします。