判例時報No.2254に掲載された判決を紹介します。
建築後79年が経過した建物について、不動産業者が平成24年11月に所有権を取得し、その2か月余り後の平成25年2月に賃借人に対し解約を申し入れたという事案です。これに対し、賃借人が解約を受け入れなかったため、不動産業者が建物明渡しを請求する裁判を起こしました。
一般論として、賃貸人から建物の賃貸借契約を解約するには、正当事由が必要とされます。この正当事由には諸般の事情、たとえば建物の老朽化の程度や、新築計画、所有者が建物を使用する必要性、立退料の提供の有無などが考慮されます。
この裁判では、不動産業者が建物の所有権を取得した後、ほんの2か月余り後に解約申し入れをしていることから、裁判所は、原告の不動産業者について 「被告を退去させることを念頭において本件建物の所有権を取得した」 「居住に対する配慮が欠けている」 などと認定し、その他の事情と合わせて解約申入れの「正当事由があるとは認められない」 と判断しました。
世間的には、立退きを求めることを前提に不動産の所有権を取得する不動産業者も少なくないと思われます。このような手法も、正当な立退料が払われるなどして納得を得られるなら、賃借人にとって必ずしも不当とはいえません。ただ、上記裁判例にもあるように、「正当事由」の判断にあたっては所有権取得の経緯や動機も考慮されることがあります。このため、賃借人が解約を拒否することが見込まれるようなケースでは、立退きを求めることを前提に不動産を取得すべきかどうか、賃借人の権利も十分に尊重して、慎重に判断する必要があります。
不動産取引には、トラブルが少なくありません。不動産業者の方は、微妙な事案では是非、事前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。