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財産開示手続と刑罰

財産開示手続で裁判所に出頭しなかった債務者が書類送検されました

財産開示手続を申し立てられたのに正当な理由なく出頭しなかった債務者について、神奈川県警が書類送検(検察庁に送致)したとの報道がありました。

財産開示手続とは

財産開示手続は、債権者が債務者の財産について情報を得るための手続です。財産開示手続の申立があると、裁判所が、財産状況について説明させるために債務者を呼び出します。

財産開示手続を申し立てるためには、強制執行をできる債務名義(確定判決等)があることに加え、事前の強制執行がうまくいかなかったことなどの要件があります。

債権者は、お金の支払いを請求する裁判で勝訴しても、債務者の財産の所在が分からなければ強制執行もできず、債権を回収できません。実際に、裁判で勝ってもお金を回収できないケースというのは珍しくありません。

こうした問題を解決するために、平成15年の民事執行法改正で、債務者を裁判所に呼び出して財産状況について説明させる財産開示手続が新設されました。しかし、当初の制度では、債務者が呼び出しを無視しても最大で30万円の「過料」が科されるのみでした。このため債務者が出頭しないことも多く、あまり実効性のない制度と言われていました。

そこで、さらに民事執行法が改正され、2020年4月1日から施行されました。この改正では、不出頭の罰則が、上記の過料から、「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」へと大幅に強化されました。

これまでとの違い(過料から懲役・罰金へ)・・・前科、刑務所

過料とは異なり、懲役や罰金は刑罰であり、前科がつきます。刑務所に入れられる可能性もあります。

改正前に科されていた「過料」は一種の罰ではありますが、刑罰ではありません。このため、前科もつきません。そして、実際に過料が強制的に徴収されることも少ないため、「30万円以下の過料」といっても、実効性があまりありませんでした。

これに対し、懲役と罰金は、刑罰です。いずれも前科がつきます。特に、懲役に関しては、刑務所に入れられるわけですから、過料とは次元の異なる重い罰といえます。罰金についても、支払わなければ労役場留置と言って刑務所に入れられる制度があります。

今回報道されたケースでは、債務者は、無視していれば債権者が諦めると思っていたようです。これまでの制度では、このように考えて請求を無視する債務者も珍しくありませんでした。しかし、今後は、債務者が不誠実な態度を続けると前科までつく可能性が高まりました。既に他の前科があるような債務者については、懲役刑の実刑(執行猶予がつかず刑務所に入れられること)が科される可能性もあります。

過去の未払い債務がある債務者の方

上記の改正により、今後、多くの債権者が財産開示手続を申し立てることが予測されます。過去の未払い債務があって、支払ができないという方は、早急に弁護士に相談してください。弁護士が事情を確認し、状況に応じて分割払いの交渉や自己破産の手続をしていくことになります。

債務者の中には、自己破産をすることで債権者に迷惑がかかるのでは、と躊躇する方もいらっしゃいます。しかし、払えるあてもないのに自己破産もせずに放置する方がよほど債権者に迷惑がかかってしまいます。

債権者に重ねての迷惑をかけてしまう前に、弁護士に相談して頂ければと思います。

過去に裁判で勝訴したのに回収できなかった債権者の方

過去に裁判で勝訴したにも関わらず、債務者の資産の在処が分からずに回収できなかった債権者の方にとっては、上記の改正は朗報といえます。

もちろん、この手続で必ず資産の所在が分かるわけでもありませんし、そもそも資産がない債務者については債権は回収できません。しかし、支払能力があるのに無視を続けるような不誠実な債務者に対しては、相当有効な手続ができたと言えます。当法律事務所としても、回収可能性があるケースについては積極的に財産開示手続を活用していければと考えております。

投稿者:

弁護士 澄川 圭

神奈川県弁護士会(旧横浜弁護士会)川崎支部所属。企業法務、倒産事件、一般民事事件及び家事事件。英語関連の業務(英文契約書等)も取り扱っております。