機械翻訳の精度向上(Google翻訳の進化)と弁護士業務上の注意点

plant2Google翻訳が進化し、数年前では不可能と思えていた精度での英日機械翻訳が実現しているようです。

Google 翻訳が進化しました。
(2016年11月16日 Google Japan Blog)

私はもともと翻訳の仕事をしていたことから、英語の仕事をすることが多く、英文契約書の作成等の他に、他の弁護士から英文メール等翻訳のご依頼を頂くこともあります。機械翻訳が進化すると、ちょっとした英文なら外注に出す必要がなくなり、こうした細々とした翻訳のお仕事は減少するのかもしれません。

ただ、注意も必要です。ネット上のサービスに文章を入力すれば、そのデータが意図せずに保存・使用されてしまう可能性があります。

Google 利用規約より
本サービスにユーザーがコンテンツをアップロード、提供、保存、送信、または受信すると、ユーザーは Google(および Google と協働する第三者)に対して、そのコンテンツについて、使用、ホスト、保存、複製、変更、派生物の作成(たとえば、Google が行う翻訳、変換、または、ユーザーのコンテンツが本サービスにおいてよりよく機能するような変更により生じる派生物などの作成)、(公衆)送信、出版、公演、上映、(公開)表示、および配布を行うための全世界的なライセンスを付与することになります。

事件関係の固有名詞までバリバリ入っているような文章をGoogle翻訳にかける弁護士はさすがにいないと信じたいですが、仮に固有名詞を消したとしても、事件がらみの文章をネット上のサービスにそのまま入力することは避けるべきです。

また、どんなに精度が上がっても、機械翻訳は万能ではありません。例えば、私が普段の翻訳作業でとても苦労する場面として、

原文が間違っているとき

があります。母国語の誤植に気付くのは簡単ですが、外国語の誤植を誤植と判断するのは容易ではありません。これを機械翻訳がどこまで克服できるか。かなりカチッとした契約書などにも誤植はあります。大事な文書を機械翻訳にかけて安心してしまうわけにはいきません。最後にはどうしても人の目でのチェックが必要でしょう。

今後、高精度な機械翻訳は、社会の様々な場面で活躍していくことでしょう。翻訳業界にとってはまさに黒船かもしれませんが、全体的な翻訳品質を高めるきっかけともなります。是非、翻訳業界全体が、こうした技術の進化との相乗効果でより良い成果物を生み出せるようになればと思います。

弁護士 澄川 圭

司法試験の合格者数と新人弁護士の採用活動

少し前に今年の司法試験の合格発表があり、合格者数は1583人でした。ここ数年、司法試験の合格者数は減少が続いていますが、1500人台という数字は予想を超えた少なさであり、それなりにインパクトのある数字でした。

弁護士は、司法研修所を修了した年によって「修習期」で分類されます。上記の1,500人強の皆さんはこのまま司法修習生になれば「70期」ということになります。

10年前の60期以降、各期の人数が2,000人を超えるようになりました。その数年前までは各期数百名しかいませんでしたから、まさに激増と言えます。この結果、「仕事がなくて食えない弁護士」が話題に上るようになり(不思議なことに私はそんな人に会ったことはないのですが)、弁護士業界の中では「合格者を速やかに減らすべきだ」という意見が強くなりました。

確かに、合格者数が減れば競争の激化も抑えられますので、傾きかけた業界の安定にはある程度資するのかもしれません。しかし、物事はそう単純ではありません。弁護士の大多数が所属する東京・大阪(及びその他大都市)とその他の地域とでは、違った見方をする必要もあります。

私は、神奈川県の川崎市というところで弁護士をしています。川崎市は都市部ではありますが、東京という巨大都市と横浜という大都市に挟まれており、裁判所においても弁護士会においても「支部」という扱いになります。

私が弁護士登録をしたころは、川崎市には弁護士が数十名しかいませんでした。人口比でいえば、弁護士過疎地ともいえるような状況だったのです。どうしてこういうことが起きるかというと、どうしても大都市希望の司法修習生・弁護士が多いということが挙げられます。つまり、求職者(司法試験合格者)が少ないと、このエリアでは東京や横浜でほとんどの人が就職してしまうので、周辺部には弁護士が増えないのです。(私自身も、川崎市出身でなければ川崎市内で就職することはなかったかもしれません)

今後、司法試験の合格者が減少してくると、改めて同じことが起きてきます。弁護士の人口はこの10年で劇的に増えましたので、採用母数も増えており、新人弁護士を対象とした求人総数も増えていると考えられます。このような状況の中で急激に合格者数が減ると、まずは東京の求人から埋まっていき、次いで横浜の求人が埋まり、そこでほぼ全員が就職できてしまう可能性があります(もちろん司法修習生全員がそういう思考をするわけではありませんが、一般的な流れとしてこのようになると考えます)。周辺(支部)の小規模な(弁護士数名程度の)事務所では「新人を採用したくても採用できない」という状況が目立ってくると考えられます。このようなエリアで今後の事務所経営を考える場合は、求人難になるであろうことを十分に理解して、それでも一定数の弁護士を雇いたいのであれば、司法修習生が自分の事務所に応募してくれるための方策を考えておく必要があります。

求人難に対する方策はいくつか考えられます。

一番分かりやすいのは、給与・報酬等の条件を上げることです。もっとも、他事務所と比較して条件を上げられるような小規模事務所は、それほど多くないでしょう。あるいは人材紹介会社を利用することも考えられますが、高額な手数料(年収の3割程度)を払った挙げ句に、すぐに退職されてしまうようなおそれもあります。

結局は、小手先のことではなく、「在籍したいと思える魅力のある事務所」を作っていくほかはないのでしょう。その上で、司法修習生にその魅力を分かってもらわなくてはいけません(ここがとても難しい)。

もっとも、何を魅力と捉えるかは事務所によっても司法修習生によっても異なりますので、それぞれがうまく個性を活かして特徴のある事務所を作って行ければ良いのでしょう。いずれにしても事務所の魅力の最大の要素は「人」だと思いますので、突き詰めて考えれば、良い採用(活動)が次の良い採用(活動)を生み出すのかもしれません。

弁護士 澄川 圭

自由と正義 2016年8月号

日本弁護士連合会自由と正義日本弁護士連合会の発行する月刊誌「自由と正義」が、毎月事務所に届きます。届くだけで普段はあまり読まないのですが、今月号については特集1の「LGBTと弁護士業務」を読んでおこうと考えて手に取りました。LGBTについて、人口の数パーセント(日本でいえば数百万人)がセクシュアル・マイノリティであるという調査もあります。弁護士として、というより社会人として、基本的な知識は身に付けておきたいところです。

特集2は「若手会員支援の必要性と支援の取組」。私もそろそろ「若手」には括られない世代になってきましたが、昔から、弁護士会がお仕着せの「若手支援」をすることには違和感がありました(こちらにも書きました)。

若手の能力を向上させるためには、半ば強制的に研修に参加させるよりも、ベテランの先輩方が若手に対して圧倒的な能力差を見せつけることの方が効果的です。私も、弁護士登録以来、「この人はすごい」と素直に感嘆し尊敬できる先輩方と出会い、少しでも追いつくべく努力しています。若手弁護士の一人ひとりがすごい先輩を目の当たりにし、「自分は圧倒的に勉強が足りない。プロとして恥ずかしい。」という気持ちを持てば、そして業界全体ににそういう感覚が広がれば、自然と全体の能力が向上していくのだと思います。

このままいけば、私もいずれはベテランと呼ばれる世代になるのでしょう。そのときに若手を圧倒することはできないまでも、せめて若手に対して恥ずかしくないように、今後も勉強を継続するつもりです。

なお、私は幼少時から勉強することが大の苦手なので、いつも「勉強会」や「研究会」という形で人を巻き込んで勉強するようにしています。勉強会は、単に勉強になるだけではなくて、勉強会に参加するメンバーとの人間関係も強固になり、仕事上の様々なメリットも生じます。若い世代の弁護士は、是非たくさん自主的な勉強会を企画・実行していただきたいと思います。

信頼できる弁護士の見つけ方

弁護士による横領事件が複数生じていることから、以下のような報道がなされています。
弁護士横領、被害救済検討=成年後見人などで後絶たず-「信頼維持に必要」・日弁連
https://www.jiji.com/jc/article?k=2016043000195&g=soc

記事にある制度は、「ひどい弁護士に依頼してしまった人を、他の利用者全員が負担して救済する」制度であることに注意が必要です(弁護士会費から資金が出るとしても、弁護士が払う会費の原資はそれぞれの依頼者が払った弁護士費用です)。

このような制度が「信頼維持に必要」とのことですが、そもそも弁護士の信頼というのは事件を依頼する段階から求められる要素です。このため、この制度が「信頼維持」に役立つとは思えません。仮に、弁護士が事件を引き受ける際に、「私があなたのお金を横領したとしても、弁護士会から見舞金がもらえるので安心して下さい」と説明したとして、そんな弁護士を信頼できますか?

もっとも、日弁連で検討してもこの程度の案しか出てこないというのは、弁護士会として横領を完全に抑止できるような良い手段が存在しないということの現れでもあるでしょう。

いずれにしても、利用者サイドとしては、いかにして信頼できる弁護士にたどり着くかが大切になってきます。信頼できる弁護士を見つける一番の方法は、人として信頼できる知り合いの弁護士に対応を相談することです。まともな弁護士であれば、仮にその事件が自分の専門外だった場合でも、適切な相談窓口を紹介します。弁護士の知り合いがいない場合は、次善の策として、信頼できる知人に弁護士を紹介してもらうのが良いでしょう。それも無理な場合は、せめて、社会一般の常識(それこそ「時間を守る」「連絡が取れる」「丁寧語を使える」などの単純なこと)を守れる弁護士に依頼することです。