お知らせ・コラム

資金繰りが厳しくても、変な金融を頼るべきではありません

「個人融資掲示板」犯罪の温床に(北海道新聞) – Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171016-00010000-doshin-soci

私も事業者の端くれとして、経営者の方々の「何とか事業を継続したい」という気持ちは良く分かります。しかし、資金繰りに窮したときに、親族や友人から多額のお金を借りたり、変な金融に手を出したりすべきではありません。通常の金融機関が融資をしてくれないということは、通常は、その会社の事業について将来の見通しが立たないということです。そういう場合はいったん廃業(破産)も含めて検討をすべきです。

私は破産管財人あるいは申立代理人として、会社の破産手続を年に何件も見ます。その内の相当数の経営者が、破産直前に親族や友人(場合によっては従業員)から何百万円もお金を借りていたり、不法な金融業者からお金を借りていたりします。

資金繰りに窮したときには、よほど確実な入金の見通しがない限り、親族・友人・従業員からお金を借りてはいけません。

破産をしたら人生が終わりというわけではありません。その後も人生は続いていきます。最近は人手不足ですから、健康状態に問題がなければ生活費くらいは何とか稼げることが多いでしょう。雇われて給料をもらい、お金を貯めて再起することも可能です。

破産をした場合でも、子どもの学費などでどうしてもまとまったお金が必要になるケースもあります。破産の後数年間は金融機関がお金を貸してくれませんから、こういうときは、親族や友人に頼んで助けてもらうしかありません。

しかし、援助をしてくれる親族や友人も、無制限にお金を貸してくれるものではありません。そうした親族や友人が援助してくれるとすれば、それまでに経営者が誠実に築き上げてきた信頼関係や友情があるからでしょう。

困ったときに助けてくれる親族や友人は、破産しても失われない大切な財産です。その大切な親族や友人のお金を破産寸前の事業につぎ込んで無駄に使ってしまうと、お金を失うだけでなく、築き上げてきた大切な人間関係も破壊されかねません。

また、不法な金融業者については、そもそも回収が困難な状態であると分かっていながら「お金を貸します」と言ってくるわけですから、詐欺であったり、悪質な取立行為をする業者であったりして、決して事業継続の助けにはなりません。手数料と言われて何十万円もだまし取られたり、明日の30万円の支払のために200万円の自動車を持って行かれたりして、結果的には他のまともな債権者(上記のような親族・友人を含む)に多大な迷惑をかけることになります。

資金繰りに窮すると、頭の中は資金繰りのことだけになってしまい、経営者が不合理な行動をしてしまうのもやむを得ない面はあります。ただ、そうした中で、1時間でもとって、弁護士に相談していただければと思います。弁護士も、必ず破産を勧めるわけではありません。より適切な手段があるならそれに向けたアドバイスもします。また、弁護士と話す中で、一時でも冷静になって自らの事業計画を見つめ直せば、自ずと採るべき道も見えてくるかもしれません。

事業継続はもちろん大切なことですが、本来、事業は手段でしかないはずです。最後まで守るべきものは何か、よく考える必要があります。事業をほんの1, 2か月延命させるためだけに、本来なら守れたはずの大切な人間関係まで破壊してしまうのは、本当に残念なことです。

外国人・外国企業の創業支援

平成29年8月8日、川崎商工会議所で、川崎市内の行政機関や金融機関等にお集まりいただき、外国人創業支援に関する意見交換会を開催しました。錚々たる皆様にお集まり頂いた中、慣れない司会をさせていただきましたが、とりあえず無事に終えることができ、ほっとしました。(神奈川新聞 9日朝刊に記事が掲載されました

5年前に弊事務所の英語ウェブサイトを開設して以来、「日本での会社・子会社設立を支援して欲しい」という海外からの問い合わせが相当数寄せられており、この件数は、年を追うごとに増えてきています。小規模な法人設立の業務(及び関連する許認可の業務)は、どちらかというと司法書士や行政書士の領域であり、弁護士が関わるところはあまりありません。それでも、日本に興味をもち日本で経済活動をしたいという方々の助けになればと思い、何件かのサポートを行ってきました。

この際、依頼者からの情報を聴き取り、必要に応じてそれを行政書士や司法書士につなげて会社設立のサポートをするのですが、弁護士としての業務というよりはむしろ通訳や翻訳(ほぼボランティア)に手間を取られることも多かったため、正直なところ私にとってはペイしない業務でした。それでも、日本が好きで日本で起業したいという外国人と触れあい、彼らのビジネスに関わったことは非常に興味深い経験でしたし、酒類や化粧品など専門性の高い分野で活躍されている他士業の方々と一緒に仕事できたことも、貴重な財産となりました。

とはいえ、あまりこの分野に時間を割きすぎると本来の業務に影響が及んでしまいます。そこで、「依頼者と直接英語でやり取りできる士業でネットワークを作りたい」という気持ちが強くなり、数年前から色々な知り合いに「英語ができる士業の方を知りませんか」と尋ねるなどしてきました。その結果、数年かけて、英語で起業に関わる業務をされている各士業の方々とつながりができました。

今年3月に、川崎商工会議所において外国人創業支援研究会が発足し、外国人向けのウェブサイト(https://onestop-kawasaki.com/)も作成中です。今後、関係諸機関と協力をし、一件でも多く優良な企業を川崎に誘致して、川崎地域の発展に少しでも役立つことができればと考えています。

※上記の外国人向けサービスはワンストップサービスを目指すものですが、弁護士法及び弁護士職務基本規定の関係で、弁護士が事件を受任して報酬が発生するような場合は依頼者と弁護士の間の個別契約になります。(もっとも、今回の仕組みでは弁護士が受任し報酬が発生することはあまり予定されていません。)

機械翻訳の精度向上(Google翻訳の進化)と弁護士業務上の注意点

plant2Google翻訳が進化し、数年前では不可能と思えていた精度での英日機械翻訳が実現しているようです。

Google 翻訳が進化しました。
(2016年11月16日 Google Japan Blog)

私はもともと翻訳の仕事をしていたことから、英語の仕事をすることが多く、英文契約書の作成等の他に、他の弁護士から英文メール等翻訳のご依頼を頂くこともあります。機械翻訳が進化すると、ちょっとした英文なら外注に出す必要がなくなり、こうした細々とした翻訳のお仕事は減少するのかもしれません。

ただ、注意も必要です。ネット上のサービスに文章を入力すれば、そのデータが意図せずに保存・使用されてしまう可能性があります。

Google 利用規約より
本サービスにユーザーがコンテンツをアップロード、提供、保存、送信、または受信すると、ユーザーは Google(および Google と協働する第三者)に対して、そのコンテンツについて、使用、ホスト、保存、複製、変更、派生物の作成(たとえば、Google が行う翻訳、変換、または、ユーザーのコンテンツが本サービスにおいてよりよく機能するような変更により生じる派生物などの作成)、(公衆)送信、出版、公演、上映、(公開)表示、および配布を行うための全世界的なライセンスを付与することになります。

事件関係の固有名詞までバリバリ入っているような文章をGoogle翻訳にかける弁護士はさすがにいないと信じたいですが、仮に固有名詞を消したとしても、事件がらみの文章をネット上のサービスにそのまま入力することは避けるべきです。

また、どんなに精度が上がっても、機械翻訳は万能ではありません。例えば、私が普段の翻訳作業でとても苦労する場面として、

原文が間違っているとき

があります。母国語の誤植に気付くのは簡単ですが、外国語の誤植を誤植と判断するのは容易ではありません。これを機械翻訳がどこまで克服できるか。かなりカチッとした契約書などにも誤植はあります。大事な文書を機械翻訳にかけて安心してしまうわけにはいきません。最後にはどうしても人の目でのチェックが必要でしょう。

今後、高精度な機械翻訳は、社会の様々な場面で活躍していくことでしょう。翻訳業界にとってはまさに黒船かもしれませんが、全体的な翻訳品質を高めるきっかけともなります。是非、翻訳業界全体が、こうした技術の進化との相乗効果でより良い成果物を生み出せるようになればと思います。

弁護士 澄川 圭

司法試験の合格者数と新人弁護士の採用活動

少し前に今年の司法試験の合格発表があり、合格者数は1583人でした。ここ数年、司法試験の合格者数は減少が続いていますが、1500人台という数字は予想を超えた少なさであり、それなりにインパクトのある数字でした。

弁護士は、司法研修所を修了した年によって「修習期」で分類されます。上記の1,500人強の皆さんはこのまま司法修習生になれば「70期」ということになります。

10年前の60期以降、各期の人数が2,000人を超えるようになりました。その数年前までは各期数百名しかいませんでしたから、まさに激増と言えます。この結果、「仕事がなくて食えない弁護士」が話題に上るようになり(不思議なことに私はそんな人に会ったことはないのですが)、弁護士業界の中では「合格者を速やかに減らすべきだ」という意見が強くなりました。

確かに、合格者数が減れば競争の激化も抑えられますので、傾きかけた業界の安定にはある程度資するのかもしれません。しかし、物事はそう単純ではありません。弁護士の大多数が所属する東京・大阪(及びその他大都市)とその他の地域とでは、違った見方をする必要もあります。

私は、神奈川県の川崎市というところで弁護士をしています。川崎市は都市部ではありますが、東京という巨大都市と横浜という大都市に挟まれており、裁判所においても弁護士会においても「支部」という扱いになります。

私が弁護士登録をしたころは、川崎市には弁護士が数十名しかいませんでした。人口比でいえば、弁護士過疎地ともいえるような状況だったのです。どうしてこういうことが起きるかというと、どうしても大都市希望の司法修習生・弁護士が多いということが挙げられます。つまり、求職者(司法試験合格者)が少ないと、このエリアでは東京や横浜でほとんどの人が就職してしまうので、周辺部には弁護士が増えないのです。(私自身も、川崎市出身でなければ川崎市内で就職することはなかったかもしれません)

今後、司法試験の合格者が減少してくると、改めて同じことが起きてきます。弁護士の人口はこの10年で劇的に増えましたので、採用母数も増えており、新人弁護士を対象とした求人総数も増えていると考えられます。このような状況の中で急激に合格者数が減ると、まずは東京の求人から埋まっていき、次いで横浜の求人が埋まり、そこでほぼ全員が就職できてしまう可能性があります(もちろん司法修習生全員がそういう思考をするわけではありませんが、一般的な流れとしてこのようになると考えます)。周辺(支部)の小規模な(弁護士数名程度の)事務所では「新人を採用したくても採用できない」という状況が目立ってくると考えられます。このようなエリアで今後の事務所経営を考える場合は、求人難になるであろうことを十分に理解して、それでも一定数の弁護士を雇いたいのであれば、司法修習生が自分の事務所に応募してくれるための方策を考えておく必要があります。

求人難に対する方策はいくつか考えられます。

一番分かりやすいのは、給与・報酬等の条件を上げることです。もっとも、他事務所と比較して条件を上げられるような小規模事務所は、それほど多くないでしょう。あるいは人材紹介会社を利用することも考えられますが、高額な手数料(年収の3割程度)を払った挙げ句に、すぐに退職されてしまうようなおそれもあります。

結局は、小手先のことではなく、「在籍したいと思える魅力のある事務所」を作っていくほかはないのでしょう。その上で、司法修習生にその魅力を分かってもらわなくてはいけません(ここがとても難しい)。

もっとも、何を魅力と捉えるかは事務所によっても司法修習生によっても異なりますので、それぞれがうまく個性を活かして特徴のある事務所を作って行ければ良いのでしょう。いずれにしても事務所の魅力の最大の要素は「人」だと思いますので、突き詰めて考えれば、良い採用(活動)が次の良い採用(活動)を生み出すのかもしれません。

弁護士 澄川 圭