現在の企業法務では、「コンプライアンス」がとても重要です。最近では、大企業だけでなく中小企業でもコンプライアンス規定を作成するところが増えてきています。
コンプライアンスというカタカナ語の意味するところは広く、明確な定義をすることはできません。日本語では「法令遵守」という言葉が使われることが多いようです。もっとも、コンプライアンスにおいて遵守すべき対象には法令(法律、行政機関の命令)のほかに、社内の規則や社会の一般的なルールも含まれ得ることから、「法令等遵守」という言葉が使われることもあるようです。あるいは、「規範遵守」や「ルール遵守」とするのが分かりやすいかもしれません。
社会の様々なルールには、国会で慎重な審議を経て成立する法律のような「硬いルール」から、日常の食事のマナーのような「緩いルール」まであります。企業が則るべきコンプライアンスに、全てのルールが含まれるわけではありません。そして、どの程度のルールまでが含まれるのか、という境界線は曖昧です。この境界線については、各企業でそれぞれ意識して検討し、「守るべきルール」を設定していく必要がありますし、検討の過程ではどうしてもグレーゾーンも出てくるでしょう。
そして、「守るべきルール」の範囲は、企業文化によっても変わってきます。決して、全てのルールを守る会社が良い会社ということにはなりません。極端な話、従業員全員の箸の上げ下ろしまで上司が厳しくチェックするような会社があったとすれば、ブラック企業と言われかねないでしょう。
結局のところ、コンプライアンスは、「当該企業が守るべきルール」を決めて経営・業務遂行をすべき、ということになります。そのためには、経営者や従業員が、自社の経営理念や業務内容について十分な理解をしながら、自社に合った形のコンプライアンスを構築していく必要があります。また、コンプライアンスは、時代によっても変わっていくことに注意が必要です。一度社内で決めたから終わり、というものではありません。例えば、過去には女性を採用で差別したり、女性職員のことを軽んじたりということが、さしたる問題意識もなく行われていました。しかし、現在ではいずれも大きな問題があると捉えられる行為です。
そして、自社のコンプライアンスについて考えるにあたり、社会において「必ず守るべき」と捉えられているルールを蔑ろにしないように気をつける必要があります。組織内部だけで検討をすると、どうしても過去の企業文化になじんでいることもあり、社会全般のルール意識とは乖離してしまうことがあります(いまだに女性職員のことを「うちの女の子」と呼ぶ中小企業経営者は珍しくありません)。このため、社内のコンプライアンス規定等を作成する際には、是非、外部の専門家(弁護士等)の意見も聴いて頂ければと思います。