>「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本があります(通称「赤い本」)。
>この「赤い本」は、交通事故の裁判・交渉などにおいて損害額を計算するための基準として利用されています。当事務所も、交通事故事件については重点的に扱っているため、この本を毎年購入しています。
>この「赤い本」の最新版(2014年版)が事務所に届きました。この本には、参考になる過去の裁判例が多数掲載されており、毎年、新たな裁判例の情報が追加されていきます。そして、2014年版の173頁に、私が原告代理人として担当した交通事故事件の裁判例が掲載されていました。私の弁護士人生の中で、とても強く印象に残っている事件です。(プライバシーの関係もありますので、基本的には判決から読み取れる部分のみご紹介します)
>この交通事故は、被害者が脇見運転の自動車に衝突されて数日間生死の狭間をさまよったケースでした。被害者の奥様は、それにより、筆舌に尽くしがたい辛さを味わいました。また、誠実に対応しない加害者運転手及び保険会社に対する強い怒りもありました。
>このため、最終的に交渉を打ち切って訴訟提起を決めた際に、弁護士から 「それだけ辛い思いをしたことを加害者に伝えるために、奥さんも原告として慰謝料を請求しましょう。裁判で認められる可能性は低いかもしれませんが、加害者に対する気持を整理するためにも請求した方がよいのではないでしょうか。」 と提案し、配偶者独自の慰謝料として100万円を請求することにしました。この請求をすることで、加害者に、自らが引き起こしたこととしっかりと向き合ってもらいたいという気持ちでした。
>加害者運転手や被害者奥様の法廷での尋問手続などを経て、判決では、被害者本人(夫)について670万円の慰謝料が認められただけでなく、奥様についても 「夫の死にも比肩し得べき精神的損害を被った」 として独自に100万円の慰謝料が認められました。判決書が事務所に届いて、この部分を読んだとき、「裁判所も辛さを理解してくれましたよ!」 と依頼者に早く伝えたい気持でいっぱいになりました。
>なお、この金額はあくまで慰謝料の話であって、この判決では、後遺障害の逸失利益等について、被告に約2920万円の支払義務が認められました。特筆すべきは、訴訟をする前に加害者側の保険会社が提示してきた金額はそれに遠く及ばなかったことです。裁判をすることで、実に、数倍の損害賠償が認められたことになります。
>世の中では、多数の交通事故が発生しています。そして、多くの被害者が、「保険会社が嘘をつくことはないだろう」 「大きい会社だから信用しても大丈夫だろう」 と考えて、加害者側の保険会社担当者に言われるがままに示談をしているものと思われます。しかし、残念ながら、この部分について保険会社は決して誠実ではありません。保険会社が、支払額を減らすために、被害者に不正確な説明をして示談するケースは珍しくありません。なかには被害者をクレーマー扱いするような保険会社さえあります。(このため、ご自身や身内の方が交通事故に遭ってしまった場合は、是非、一度は弁護士に相談をしてください。)
>この事件を受任してから和解にいたるまで、被害者のご夫婦とは4年以上のお付き合いとなりました。4年間の苦労の末に、依頼者が納得できる解決に至ったことで、弁護士としても非常に嬉しく印象に残っている事件です。特に、一審の判決で、奥様についても独自に100万円の慰謝料が認められたことは、とても嬉しい成果でした。
弁護士 澄川 圭