当事務所の澄川が書いた記事が、横浜弁護士会ホームページの「弁護士コラム」に掲載されました。
投稿者: 弁護士 澄川 圭
選挙権と飲酒・喫煙の年齢引き下げについて
来年(2016年)から、選挙権が18歳から認められることになりました。
これに合わせて、一部の国会議員の間で、飲酒及び喫煙についても18歳から認めるべきとの動きが出ています。このニュースを見て、2つのことが思いつきました。
1) 誰が得をするのか
喫煙率については、近年、大幅に下がっています。
(公益財団法人 健康・体力づくり事業財団のWebサイト)
喫煙率が下がっている中で、今後、喫煙する可能性のある人は誰かというと、未成年者です。特に、20歳前の若者は喫煙をしたがる傾向がありますから、「煙草を売りたい」立場の人からすると、なるべく早い段階で喫煙を習慣化してもらいたいところでしょう。(飲酒についても、18歳から解禁すれば、消費量は増えるといえるでしょう。)
国会議員からこうした動きが出てくる背景にはどういうことがあるのか、興味深いところです。
(総務省のWebサイト)
2) 選挙権年齢引き下げとの関係で、どういう意義があるか
ご存じのように、世の中には多数の政治的主張があり、国会議員を輩出する政党だけでもかなりの数があります。異なる政治的主張がある人々はそれこそ水と油であり、協議をしようとしても、議論がかみ合わずに不毛な争いになってしまうことも少なくありません。
ところが、酒・タバコについては、一般的な政治的主張とは関連性がありません。自民党だろうと民主党だろうと共産党だろうと、それぞれの中に、「酒を飲む人と飲まない人」「タバコを吸う人と吸わない人」が在籍しているのです。
つまり、酒・タバコの問題は、政治的な争いとは離れて、純粋に「立法」について議論できるテーマなのです。
しかも、選挙権の対象年齢を下げたこのタイミングで、立法の世界に入門してきた18歳・19歳がまさに「自分のこと」として一連の立法過程をイメージできる点でも優れたテーマといえます。
飲酒喫煙の年齢引き下げを強くプッシュするのは立候補者にとってリスクが大きいように思いますので、残念ながら、この問題は選挙の争点とはならないでしょう。ただ、今後、選挙権年齢引き下げに関連して法教育をする際には、非常に面白いテーマであると思います。もちろん、既に成人している人々も、身近な話題として、立法について考える良いきっかけになると思います。
弁護士 澄川 圭
成年後見人の横領
成年後見人に選任された弁護士が数千万円ものお金を横領したとして、逮捕されました。
https://www.asahi.com/articles/ASH7P45XQH7PUTIL02X.html
被害額が1億円に達する可能性もあるとのことで、おそらく業務上横領罪で4~5年程度の懲役(実刑)になるのではないでしょうか。
被害者はもちろん大迷惑ですが、こういう報道があると真面目に仕事をしている他の弁護士もあらぬ疑いをかけられることになり、大変な迷惑を被ることになります。
新聞記事の最後のコメントにもあるように、成年後見人による横領は、「悪意を持っていれば誰でもできてしまう」ところがあります(専門家ではなく親族が後見をしているケースでは、あまり報道されませんが、非常に多くの横領事例があります)。かといって、成年後見業務では、成年後見人が財産管理の広い権限を持っていることで様々な手続がスムーズに進むという側面が強く、成年後見人の権限を制限するのもなかなか難しいのです。
通常であれば、成年後見人は年に一度、家庭裁判所に財産状況を報告し、預金通帳のコピー等も提出することになっています。最近では家庭裁判所でもこの報告書を丁寧にチェックするようになっており、この年一回の報告さえ適切に行われていれば、横領などはなかなかできるものではありません。ところが、数年前に弁護士が逮捕された別の事件では、家庭裁判所への報告が何年にもわたって行われていませんでした。今回のケースでどうったかは分かりませんが、横領した弁護士がまともに報告していたとは思えません。
当事務所でも多数の成年後見事件を扱っていますが、どの事件でも、家庭裁判所に報告する月を決めて、年に一度の報告を確実に行うようにしています。通帳のコピーをつけて定期的に裁判所に報告しなくてはいけないのが分かっているわけですから、仮に悪意があっても横領をすることなど考えられません(もちろん、不正をするつもりなど初めからありません)。
成年後見人の権限の広さからして、成年後見人による横領を防ぐ万全の方法は存在しないと思われます。それでも、家庭裁判所が年一回の報告を厳格に求めること、そして、家庭裁判所から報告を求めた後に合理的な期間を過ぎても報告を怠るような成年後見人には新件を任せないのはもちろんのこと、既存の事件についてもすべて解任する、などの対応を取っていけば、弁護士を初めとする専門職後見人による不正については、ほとんどを未然に防げるのではないかと考えます。
なお、東京では、弁護士が成年後見人をしている場合にも成年後見監督人をつける運用を始めるようです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150723-00000008-mai-soci
この方法であれば、ほとんどの不正を防げるでしょう。しかし、成年後見監督人の報酬も、被後見人本人の財産から支出されることになります。ごくごく一部の不祥事で、後見制度自体の利用コストが上がってしまうのは、とても残念なことです(その意味では、保険のような仕組みを利用した方が全体のコストは下げられるように思います)。
いずれにしても、ほとんどの成年後見人は、本人のために真面目に財産を管理しています(平成25年末時点での後見制度利用者は全体で17万6000人程度とのことです)。被後見人やその家族が、真面目な成年後見人に安心して財産を預けられるようにするためにも、問題のある成年後見人を積極的に排除していく工夫をしていかなくてはいけません。
建築後79年を経過した木造建物について所有権取得の経緯を理由の一つとして建物賃貸借契約解約の正当事由が否定された裁判例(東京地裁平成27年2月5日判決)
判例時報No.2254に掲載された判決を紹介します。
建築後79年が経過した建物について、不動産業者が平成24年11月に所有権を取得し、その2か月余り後の平成25年2月に賃借人に対し解約を申し入れたという事案です。これに対し、賃借人が解約を受け入れなかったため、不動産業者が建物明渡しを請求する裁判を起こしました。
一般論として、賃貸人から建物の賃貸借契約を解約するには、正当事由が必要とされます。この正当事由には諸般の事情、たとえば建物の老朽化の程度や、新築計画、所有者が建物を使用する必要性、立退料の提供の有無などが考慮されます。
この裁判では、不動産業者が建物の所有権を取得した後、ほんの2か月余り後に解約申し入れをしていることから、裁判所は、原告の不動産業者について 「被告を退去させることを念頭において本件建物の所有権を取得した」 「居住に対する配慮が欠けている」 などと認定し、その他の事情と合わせて解約申入れの「正当事由があるとは認められない」 と判断しました。
世間的には、立退きを求めることを前提に不動産の所有権を取得する不動産業者も少なくないと思われます。このような手法も、正当な立退料が払われるなどして納得を得られるなら、賃借人にとって必ずしも不当とはいえません。ただ、上記裁判例にもあるように、「正当事由」の判断にあたっては所有権取得の経緯や動機も考慮されることがあります。このため、賃借人が解約を拒否することが見込まれるようなケースでは、立退きを求めることを前提に不動産を取得すべきかどうか、賃借人の権利も十分に尊重して、慎重に判断する必要があります。
不動産取引には、トラブルが少なくありません。不動産業者の方は、微妙な事案では是非、事前に弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。
弁護士による土曜日法律相談 平成27年6月13日
当事務所の次回の土曜日法律相談は平成27年6月13日に実施します。時間は午前10時から午後5時の間で、相談料は30分3000円です(通常は30分5400円)。
当事務所の場所は、JR川崎駅及び京急川崎駅の近くです(神奈川県川崎市川崎区砂子1-8-4)。女性の弁護士も在籍しておりますので、女性の方もお気軽にご相談ください。
相談御希望の方は問合せフォームまたは電話・メールにてご予約ください。
取り扱い分野:
交通事故、遺言、相続、離婚、債務整理、破産、個人再生、労働問題(解雇、残業代等)、不動産(借家、借地、売買等)、債権回収、事業承継、その他個人・法人の法律相談全般