判例時報2241号に、パワハラの裁判例が掲載されています(東京地方裁判所平成26年7月31日判決)。
この裁判では、従業員X(原告)の上司が、Xに対し、「新入社員以下だ。もう任せられない。」や「何で分からない。おまえは馬鹿」というような叱責をし、これによりXが鬱病になったとされました。そして、判決においては、上記のような叱責が注意または指導のための言動として許容さえる限度を超え、相当性を欠くものであったと評価せざるをえないとして、損害賠償の請求が認められました。
原告の請求額約2400万円のうち認められたのは300万円弱でしたが、企業側の損失はこの金額だけではありません。パワーハラスメントの事実が裁判で認められたことで、企業の社会的評価も低下します(判例集には被告会社名がそのまま記載されています)。また、上司個人についても、会社と「連帯して」損害賠償の支払いを命ぜられていることに注意が必要です。
なお、この事件では、会社の内部通報制度が十分に機能していなかったとして、コンプライアンス室長も同時に訴えられています。この事件では室長に対する請求は認められませんでしたが、コンプライアンス責任者は、こうした問題でいつ被告にされるか分からない立場であるといえます。コンプライアンス責任者は、そうした立場を十分に理解した上で、自らの職責に沿って適切かつ慎重に行動することが求められます。
このような事件が裁判にまでなってしまうことは、企業にとっても従業員にとっても大きな不幸といえます。パワハラがあったかどうかの事実を認定するために、裁判には長い長い時間がかかります。この事件も、訴え提起は平成24年6月頃だったようですから、判決までに2年以上がかかっています。
こうした不幸を避けるためにも、企業としては、まずは社員教育等を通じてパワハラ等の問題が起きない体制を整えるとともに、問題が起きてしまったときの十分な対応についても日頃から十分に検討して準備しておくことが必要といえるでしょう。