弁護士の澄川です。判例時報2247号に、売主の本人確認義務を怠ったとして司法書士が損害賠償の支払を命じられた事例が掲載されています(東京地方裁判所平成26年11月17日判決)。
この事件では、司法書士が、売主が提出した運転免許証や印鑑登録証明書が客観的に明らかにおかしいのに(インクのにじみ、印字のずれなど)、これらが偽造であることを看過してしまいました。
そこから簡単に想像できるように、この「売主」は実は所有者本人ではありませんでした。しかし、買主は、司法書士が本人確認をしたということで信用して、代金の支払いまでしてしまいました。そして、支払が済んだ後に、法務局で偽造が発覚しました。この時点で、真の氏名も分からない「売主」はどこかに逃亡してしまい、買主は代金を返してもらうこともできなくなってしまいました。
不動産取引においては、通常は、こういうことが起きないように、慎重に取引が行われます。買主も、直接の契約当事者として、相手の信用性について十分な調査をしなくてはいけません。この事件では、原告である買主自身も十分な調査をしなかったということで、司法書士に対する損害賠償請求は7割減額されました。この結果、損害額3500万円余りのうち、3割にあたる1050万円余りについて、司法書士の損害賠償責任が認められています。
被告となった司法書士も1000万円を超える損害賠償をしなくてはならず大変ですが、買主としても、残りの2500万円は丸損です(仮に後日詐欺師が捕まっても、お金は残っていないことがほとんどです)。不動産取引は、多少時間がかかっても全当事者が気をつけて慎重に進めなくてはいけない、という教訓となる事例かと思います。

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判例時報2241号に、パワハラの裁判例が掲載されています(東京地方裁判所平成26年7月31日判決)。